75Hzの読書ノート

ノンフィクション中心の読書メモです

読書メモ:いまの科学で「絶対にいい! 」と断言できる 最高の子育てベスト55―――IQが上がり、心と体が強くなるすごい方法

 

育児中なのでこういった本は気になる。評価も悪くなかったことと、序文に「本書は、実験・研究データに基づいて書かれています」と書かれていたので興味を持って読んでみた。

しかしひどいタイトルである。最近の流行りとは思うが、原題は「Zero to Five: 70 Essential Parenting Tips Based on Science」、つまり「0歳から5歳までの5年間の発達を助ける、科学的根拠に基づいた70のアドバイス」というタイトルである。この5年間が人生で最も変化が大きい時期であり、この時期に子どもに身についた学びは、その後の人生をずっと助けてくれるという考えから、筆者は「Zero to Five」というタイトルをつけた。正直この邦題のせいで手を伸ばすのを読者もいるのではないだろうか(しかし逆にこのキャッチーなタイトルのおかげで届いた読者層もいるのかもしれない)。

 

エビデンスに基づくことをウリにしているが、筆者が序文で断っているように、医学的なエビデンスの考え方と子育てとは、お互いに馴染まない点もある。医学的なエビデンスの目指すものは「厳密な実験に基づいた立証データ」である。実験の対象にはできるだけ等質な集団を用意する必要があるが、子育てにおいて、子どもをカテゴライズすることは非常に難しい。子どもの気質は成長発達段階であり、こちらの関わりによっても変化するからである。実験では介入は一律にプロトコールを遵守しなければいけないが、子育てで杓子定規なやり方を続けることはできないことは誰もが経験するだろう。他にもアウトカムが数値として測定困難、交絡因子が多すぎるといったことが挙げられるだろう。

たとえ研究結果がくり返し立証されてもなお、自分の子に該当するとは限りません。(中略)その意味では、この本は、いわば「道案内」のようなものです。よさそうだと思う道を選んだり、いまの道のままでいいのかを確認したりするのに使ってください。すべてのアドバイスに従う必要はありません。赤ちゃんが生まれたら、できるだけ肩の力を抜きましょう。p6

 

 

さて、内容だが、現実的かつ理に叶ったものが多い。

寝かしつけ、声掛け、遊び方、しつけ、といった項目毎に、シンプルにまとめられているので、さらりと流し読みできるし、困ったときに読み返しやすい。中には理想論で、家庭状況によっては到底実行は困難だろうと思う内容もあるが、それこそ筆者が書いているように、内容をすべて守る必要はなく、自分の子育てに合うものは取り入れ、合わないものは読み流すという態度でいいだろう。

 

読んでいて有用だと思ったアドバイス

新生児の赤ちゃんにも「共感」をすることが有用

赤ちゃんの立場から考えることで、長時間抱っこであやしたり、夜中にオムツを替えたりといったお世話のときのイライラが軽減します。夫はこれが得意です。泣いている娘に「悲しいんだね、かわいそうに」「赤ちゃんはつらいよね」「さあ、オムツを替えようか。オムツがきれいだと気持ちいいよね」と声を掛けるので、私もつい笑顔になりました。p173
相手の事情や心理を想像することで、こちらのイライラが軽減されるテクニックは、

読書メモ:「怒り」がスーッと消える本-「対人関係療法」の精神科医が教える - 75Hzの読書メモ でも書かれていた。赤ちゃんが本当にそんなことを考えているのか、なんてことは実は重要でなくて、相手にも事情と理由があって自分を困らせているのだ、と思うと、じゃあどうするかという現実的な対処法に気持ちが向きやすいのだ。

 

子供には生まれ持っての気質がある

いくつかの分類が紹介されているが、トーマスとチェスという研究者が報告した3つの型がわかりやすい。彼らは32年かけて140人の子どもの気質のデータを採取し、分類した(p181)。
  1. 柔軟・ラクな子ども [40%] 
  2. 短気・活発・難しい子ども [10%] 
  3. 慎重・打ち解けるのに時間がかかる子ども [15%] 
  4. その他 [35%] 
まあまあ納得感はある。実際に大事なのはこの型が本当に正しいかではなく、自分の子どもの行動・情動のパターンを知ること。そして親がそれに合わせてどうすべきかを考えることができるということだ。
子どもとの適合度が低い親が、よりよい関係を築く方法はただ一つ。親の期待とスタイルを調整し、子どもの環境を調整することです。
その通り、親が理解し合わせるしかないのだ。
 
ここから先は、本の内容で参考になったところを備忘録的にまとめた。
読んで興味を持たれたら是非本書にあたってみてほしい。
 

 

内容のまとめ 

基底
  • 情緒が安定しストレスホルモンのバランスが取れていると、発達が促される
  • 安心感に包まれていると、生活上の小さなストレスが、成長のチャンスになる
 →愛着や基本的信頼と表現されるベースがなければ、問題が発生したときに成長できない
  • 肌が触れ合う(スキンシップ)だけで、神経伝達物質が放出され、ストレスホルモンが低下する。
 
承認
  • 結果、才能ではなく、プロセスを褒める
  • 成功は生まれつきの才能や頭の良さの結果だという「硬直マインドセット」と、成功は、がんばった結果だという「成長マインドセット」 どちらの子が難題に対して粘り強く取り組むかは明らか
  • 男の子のほうが、女の子より「プロセス」を褒められる体験が多い
  • 1, 2歳の間で、男の子が聞くプロセスへの褒め言葉は24%、女の子は10%

 →割とショッキングなデータだが、残念ながら納得感もある。なぜか女の子は「可愛い」「いい子」みたいな褒められ方をして、「がんばったね」という言葉をかけられることが男の子より少ないように感じる

 

夫婦関係
  • 生後6ヶ月でも夫婦喧嘩でストレスホルモン(コルチゾール)が上昇する
  →夫婦間DVを子どもが目撃することは、子どもへの精神DVというのがコンセンサス。DVまで至らないまでも、家庭内の不和は着実に乳幼児期の愛着形成に影響を及ぼすだろう。
 
赤ちゃんの遊び
赤ちゃんが好きなのは以下の3つ
  1. 「表情を真似される」
  2. 「小さな声を出したときに優しい声が返ってくる」
  3. 「見つめようとしたら目をのぞきこまれる」
  • 赤ちゃんが静かなときは辛抱強く待ち、関わりたいとき関わる
  • 赤ちゃんの合図に気づける感度のよい子育てが、「安心できる愛着関係」を築く
 
語りかけ
  • 発語する前から理解している
 →正確な月齢については特に記載ないが、8, 9ヶ月ではある程度理解していると思われる
  • 12ヶ月までは読み聞かせの内容にはこだわらない、読み切る必要はない
  • 1歳半までは親語(陽気なハイトーン)で話しかけたほうが、子どもは聞き取りやすいし、親の言葉を真似しやすい。幼児は声道が狭いため
  • 1歳半を超えて単語が出るようになったら、親が読む量を減らし、話させる
  • 本を指さして物の名前を教え、いろいろ話す
  • 4,5歳からは朗読させ、間違えは正してあげる
  • 同様に物語について質問し、子どもからの質問を引き出す
 PEER
P:Prompt 「これはなあに」うながし
E:Evaluate 鳥、と答えたら「正解!」
E:Expand 「ハトさん、白くてくっくるーって鳴くハトさん」
R:Reaat 「ハト、って言ってご覧」
→最近よく言われるように、言語理解能力は、他のすべての勉強の土台となる。語彙数が多いだけでも授業の理解度は格段に上がる。IQテスト(WAIS)では、言語理解、作業記憶、知覚推理、処理速度の4つのクラスターについてテストし、点数を総合して全検査IQを算出するが、言語理解の部分点が最もよく全検査IQを予測する。 
 
睡眠
  • 生後6ヶ月から寝かしつけトレーニングを始める
  • 寝かしつけトレーニングの目的は「ベッドで一人で眠る力をつける」こと。
  • 赤ちゃんはよく眠る反面、睡眠サイクル(1.5〜2時間)毎にかなり眠りが浅くなり、一時的に目を覚ましやすい状態になる。そのときに少し目が覚めたとき、一人で眠る力がないと、毎回夜泣きになってしまう 
  • 寝かしつけトレーニングで、時間を決めてある程度泣かせっぱなしにする必要があるが、それがトラウマになるというデータはない
  •  大きくなってきたら、「寝る前にやることリスト」を作る。はじめは3つくらい、絵本を読んで、パジャマを着て、歯磨き、といった内容。子どもと一緒に作り、絵か写真にして貼っておく。うまくいかなければ、足りないことがないか探す
 
食事
  • 親のマネをしたがるので、新しい食材は食べるところをみせる
  • 新しい食材は、触らせたり、匂いをかがせたり、少しずつ口に入れるようにする。はじめは口から出しても失望しない。失望したり怒るとより食べなくなる
  • 子どもの満腹のシグナルは無視しない
 
社会性
  • 1歳半で思いやりに基づく行動はできない
  • 2歳半で多少できるようになるが、自分に損になる行為(自分のブランケットを貸すなど)は困難であり、親が明確に指示して助けてあげる必要がある(自発性に期待しない)
 
デジタル
  • 2歳までテレビは避ける
 →2歳まではテレビの内容から学ぶことは難しく、ほとんどは対人の触れ合いで相手の意図を読み取るコミュニケーションの訓練、自ら体を動かしモノの性質を知る訓練、感情や行動を制御する訓練をしていく。「探検する」「遊ぶ」「体を動かす」という乳児から幼児にかけての発育と鍵となる活動は、全てテレビで行うことはない。
  • 2歳を超えると、内容によってはテレビの内容から情報を獲得できるようになっていくその場合も、視聴者である子どもに語りかけ、テレビの前の子どもが答えるような、一緒に参加できる構成になっていることが望ましい
  • AAP(アメリカ小児学会)のガイドラインは「スクリーンを見る時間は2歳までは避ける、未就学児童は2時間まで」としている。これにはタブレットも含まれる。
 
情緒
  • 「失敗」「不快」「退屈」を受け入れ、健康的に対処できる方法を身に着けさせることが重要
  • そのためには、あえて少し待つ、モデリングで率先して対処する姿を見せる、不愉快な感情を言語化して上げる
  • 「フタが外れたとき」には、子どもの感情に名前をつけてあげて、こちらが受け入れてあげる。否定しない。そうしてから行動を指示する

 →情緒を受け入れ、コントロールする力は、最もその後の人生の幸福度を左右すると自分は考えている

 
しつけ
  • 乳幼児は注意しても分からないので、「いい方法」で置き換えてあげる。それができたらオーバーに褒めて注目を与える。
  • しつけの4つのガイドライン
  1. 明確でぶれないルールを2,3個ずつ決める
  2. ルールの理由を説明する
  3. ルールを守れるように手助けする
  4. 一緒にルールを考える
ルールが破られそうな状況の前に、念押しをしておく。そして、守れた場合にを評価する(ルールを破ったときだけ注目を与えないように)。そして、破られそうな場合、再び念押しして、ダメならきっぱりと決めた行動をする。これは関係のない罰でなく、破られた場合の悪い行動に一対一対応するものであることが望ましい。
 
  • 関係のない罰をあたえてはいけない
  • おもちゃを投げる子どもに、部屋に行って反省させる、あるいは妹を叩く子どもにデザートを取り上げる。それは権力を行使して、相手を辱め苦痛を与える行為であり、意味はない
  • 壊した人が「修復」する。こぼしたものを拭く、痛がってる子どもを慰める。
  • 「特権」を取り上げる。落書きしたらクレヨンを取り上げる。片付けなければおもちゃを1日使わせない
  • お説教には意味はない、望ましい行動の手本を見せて、その行動をとれるように繰り返すことが必要
 
かなり長くなってしまった。それと読んでいてどうしても気になったところが2点あった。
1つ目は、バイリンガルは理想的、という前提でバイリンガルに育てるための項目がある。アメリカらしいし、羨ましいことでもあるが、家族内に他言語を使う人がいないのにバイリンガルを目指すのは全く本質を外していると思う。最近は英語教育の早期教育も、あくまでの日本語のベースがある上での習得が望ましいとされている。
2つ目、おもちゃはシンプルなもの。それはいいのだが、「乾燥マメなどカップからカップへ移し替えられるもの」も推奨の一つにはいっている。マメは誤嚥窒息のリスクがあるため危険。乳幼児に与えるおもちゃは、トイレットペーパーの芯に入らないサイズ以上のものが望ましい。同様に「財布」もあるが、コイン、あるいは紙幣を噛み破って誤嚥するリスクがある。あと汚い。