読書メモ:「怒り」がスーッと消える本-「対人関係療法」の精神科医が教える
「怒り」がスーッと消える本―「対人関係療法」の精神科医が教える
- 作者: 水島広子
- 出版社/メーカー: 大和出版
- 発売日: 2011/05/10
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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「怒りで損なわれるのは相手の人生ではなく、自分の人生であって、相手の対処を待つというというのは相手に主導権を委ねてしまっていること」
「自分がとっさの怒りに囚われたときには、『単に自分の予定が狂ったから困ってるのだ』と考える」
「人の言いがかりは、相手の心の悲鳴」
などなど、短いながらも含蓄のある言葉が散りばめられている。
著者は対人関係療法の専門家でもあり、その考え方をベースにしている。そのため内容は高度なところもある。最初につまづきやすいのは、「役割期待」だろう。対人関係療法において用いられる専門用語である。人と人が交流する対人関係という場においては、お互いが相手に対して「こういう風に考えて、こう行動するものだろう」という期待を抱いている。そこに齟齬があり、自分の期待が裏切られたり、その結果として自分の予定が狂ったり被害が生じると、怒りが生じる。という考え方がベースになっている。「勝手に」「無自覚に」に抱いている期待に気づき、そのズレを修正しないと、小手先のストレス解消で怒りを抑えたとしても、怒りがくすぶりつづけてしまうのだ。
近年ではアンガーマネジメントのセミナーも増えているが、アンガーマネジメントがあくまでも「スキル」に特化しているのに対し、この本は、「怒りが生じた対人関係の現場において、それぞれの心に何が起きているか」に着目し、根底から怒りの意味付けを解体することを目的としている。
語り口は柔らかで、身近な例(夫が家事をしてくれなくてイラつく、自分のことを決めつけられてムカッとする)が多数用いられ、非常に分かりやすい。可愛らしいイラストも添えて非常に読みやすい文章なのだが、深く読むとその実かなり高度なところまで踏み込んでいることに気がつくだろう。その分、全てを書かれた通りに実行するのはかなり難しい。「こういう風に考えると、行動すると少し楽になるかも」くらいで気楽に読もう。
すべてを実践できないとしても、
「相手を変えようとしない」
「あなたを主語にするのでなく、あなたの行動で、私がこのように困っているというように伝える」
「自分は状況をコントロールできる、という感覚を取り戻すと、被害者から脱して怒りを手放すことができる」
といった実践的なアドバイスも多い
日本ではあまり対人関係療法は普及しておらず、おそらく著者の水島先生が本も多く書き第一人者だろう。こちらは医療者向けで、うつ病を主な対象疾患とした対人関係療法についての入門書。
日々切れ味鋭く、子育て論からインターネット上に転がるモヤモヤまでをぶった切る「斗比主閲子の姑日記」でも紹介されています。他の記事も非常に面白いです。