75Hzの読書ノート

ノンフィクション中心の読書メモです

脳も言語も性的に惹きつけるために進化した−『恋人選びの心』

 

恋人選びの心―性淘汰と人間性の進化 (1)

恋人選びの心―性淘汰と人間性の進化 (1)

 

性淘汰、という言葉を聞いたことがあるだろうか。自然淘汰とは別の概念である。有性生殖する生物は、多少なりとも配偶相手を選り好みする。その選り好みの蓄積によって促される進化、その仕組を性淘汰と言う。ダーウィンが進化論を唱えたときから性淘汰についても言及されていたが、長らくその意義は過小評価されていた。

性淘汰は自然淘汰と異なる、対となる概念である。自然淘汰を引き起こす主体は捕食者も含めた『環境』である。そこでの進化は行き当たりばったりで、方向性がない。方向性がないことが自然淘汰の性質である。

一方、性淘汰の主体は同種の配偶者である。それは人為的な品種改良により似たプロセスである。一度その種において装飾形質として好まれるようになると、その形質の特性は限界に突き当たるまでエスカレートしていく。わかりやすいのが孔雀の羽根である。

筆者は脳、言語、道徳、芸術といった人間固有と思われるような特質は、自然淘汰ではなく性淘汰によって進化したと提唱する。というより、自然淘汰で発生したと考えるには、これらはあまりにも高コストで役に立たたないからだ。

続きを読む

真の動機は自分からも隠されている−『人が自分をだます理由:自己欺瞞の進化心理学』

自分は自分について驚くほど知らない。自分の動機は自分からも隠されている。近代的にはフロイトに端を発するこの隠された動機についての考え方は、進化心理学によって大きく飛躍することになった。

本書は認知心理学進化心理学の過去の知見をわかりやすく紹介すると同時に、個人レベルのみならず社会の制度がなぜこのような形になっているのか、そこに隠された動機があるという観点についても考察を進めている。著者二人はソフトウェアエンジニアと、経済学の研究者であり、進化心理学の専門家ではない。そのため、進化心理学に関する最新の知見というよりは、過去の研究を分かりやすく一般向けにまとめた本になる。

若干刺激的なテイストで書かれており、面白く読み進めることができた。

人が自分をだます理由:自己欺瞞の進化心理学

人が自分をだます理由:自己欺瞞の進化心理学

 

 

 

人間の脳の進化を考える上で、2つの淘汰圧を考えることができる。

  • 協力の機会:捕食者を撃退、火を扱う、新しい食糧源を見つけるなど
  • 競争の機会:交配相手を獲得する、社会的地位を高める、同盟と裏切りなど

協力の機会は耳障りが良く、言語が進化した理由などとしてもよく挙げられるものだ。しかし、生物はあくまでも利己的な遺伝子の乗り物であり、個体にとって同種の個体もまた競争相手である。生物は進化の説明において日陰に追いやられがちな、同種との競争の機会にもまた晒されている。

セコイアが同種のセコイアから少しでも太陽を奪うために上に伸び続けたのと同様に、人間は食物、性、社会的地位、なわばりなどの資源を巡って競争し、どんどん知性を発達させた。これが社会脳仮説である。

ほぼ同格の知的能力を持ち、その動機に時としてらあからさまな悪意があるような生き物との関わり合いは、認知能力に無理難題な要求を突きつけ、しかもそれがエスカレートし続ける−スティーブン・ピンカー認知心理学者)

さて、セコイアは資源として高さを奪い合う。人間が奪い合う資源は以下の3つである。性的パートナーを得るために、高い社会的地位を周囲から認められるために、そして自分を同盟相手として有用であることをアピールするために、人間の脳は進化を続けた。
  1. 性的パートナー
  2. 社会的地位
  3. 同盟相手
しかし際限のない競争はかえって不利益をもたらす。セコイアが仮に話し合いをして高さに一定の制限を設ければ、より松ぼっくりの数を増やすなどして種の個体数を増やすことに栄養分を使えたかもしれない。
人間は規範を作り、破ったものに罰を与えることで、無駄な競争を避けることに成功した。他人を支配しようとする強者は、他の大多数による陰口によってその立場を追われる。武器の発明によって徒党を組んだ弱者が、一人の強者に優越できるようになって、よりこの規範は強化されることになった。規範は競争の機会を抑制し、協力の機会を増やすように働く。
 
しかし、残念ながらこの美しい物語だけでは終わらない。生命は常に他者を欺瞞し利益を得るように設計されている。その相手は他の生物だけではなく、むしろ同種の競争相手にこそ欺瞞の真価が発揮される。
欺瞞は生命と深く結びついている。それは遺伝子、細胞、個体、集団まであらゆる階層で発生するため、必要不可欠のようにみえる −ロバート・トリヴァース(進化生物学者
なぜ、動機を自分にも隠匿するのだろうか。欺瞞という観点からみると、この抑圧は次の2つを満たす場合に成立する。
  1. 自分の心の一部が他者に見透かされる
  2. 他者が自分を評価するにあたり、その見透かしたものが判断材料になり、報酬か罰かが決まる
(同種内の)競争によって人間の脳は進化し、かつ規範を用いることで無駄な競争を抑制し、更にその規範の裏をかいて利己的なメリットを得るために、更に脳は進化した。人間は自身の醜い動機についてしばしば無自覚であり、他者に見透かされないためにはそれが自分からも隠されていることに意味がある。この隠された動機を筆者は脳の中の象(The Elephant in the brain)と筆者は名付けた。本書の原題にもなっている。
 
以上が本書のあらましだ。
後半は様々な実例、社会的慣習について鋭く考察を進める。途中過度に露悪的で刺激的な表現を意図的にとっている箇所もみられるが、概ね納得感の高い内容であった。
 
 
後半で面白かった点をまとめておく
ボディランゲージ
  • 我々は「ボディーランゲージは無意識に行動される方が適切だ」と感じている(わざとらしく抱擁するセールスマンへの拒否感)

  • 言語的コミュニケーションには本質的な意味はなく、「サンキュー」「メルシー」という発音の違いは、文化的な慣習にしか由来しない。だから欺瞞が容易にできる。ボディーランゲージは瞳孔を見開く、一定の距離をとる、全て肉体的な意味がある。だから欺瞞できない

  • 社会的地位、性的なアピールを行うボディーランゲージは、無意識で曖昧な方がいい。言い逃れして規範からの罰を逃れるために

  • 視覚支配率とは、「相手と目を合わせた時間は、話す時と聞く時でどちらがより長いか」という比率。1.0だと優位性が高く、0.6(つまり話す時にあまり相手の目を見なければ)優位性が低い。自分が話すときにじっと相手をみるのは、自分が強者だとアピールしている
笑い
  • 笑いは本気に対した遊びのシグナルである。笑いが取っ組み合いを遊びのじゃれ合いと、本気のケンカとの区別する

  • 爬虫類、両生類、鳥類も笑う

  • 人間において笑いは社会的である(誰かといるときは、一人の30倍笑う)

  • 笑いは相手を動かすためのシグナルである(遊びであるというメッセージ)、それに相手も笑いだというシグナルを返せば、「君の行動は遊びだと認識している、単なる冗談だと分かっているよ」という両者の了解事項になる

会話
  • 会話はテキストとサブテキストがある

  • サブテキストは「自分は同盟相手として有用である」というアピール

  • 比喩としては、自分のリュックにたくさん状況にあわせた便利な道具が入っているので、同盟相手として有用だ、というアピール

 教育
  • シグナリングモデル
  • 学生は、難解な科目において、スケジュールに沿って課題を提出し、やり抜く力の証明としての卒業証書を得る。その内容に深い意味はない
  • 飼いならす、という役割もある。プラスには、暴力を振るわなくなる、協力の仕方を学ぶ、礼儀とマナーを身につける。マイナスには、非人間的な仕事に馴らさせる、時間厳守させる、非動物的にさせる

計量経済学はどう使われるのか−『「イノベーターのジレンマ」の経済学的解明』

古典「イノベーションのジレンマ」を著者が(勝手に)アップデート。イエール大学准教授の著者が計量経済学を用いて、イノベーションのあり方について定量的に考察した本。

「イノベーターのジレンマ」の経済学的解明

「イノベーターのジレンマ」の経済学的解明

 

 

内容は音楽で言うなればA→B→A'のような形式で、まず序幕で背景や本書での要旨、著者の問題意識を読者と共有する。実はこの時点でほぼ解答はでているのだが、しかしそこに数字による裏付けはない。そこでBにおいて、現実の雑然としたデータから、モデルに合わせて必要な数字を抽出し、当てはめる。ここは相当噛み砕いてはいるものの、元が論文なのでかなり高度な内容も含んでいる。そしてA'の結論に至るのだが、その内容は驚くようなものではなく、Aを少しだけ厳密な表現に変えたものに過ぎない。著者も言うように、当たり前のことを当たり前にこなすのが一番むずかしいのだ。しかし、そこに数字による裏付け、モデリングがあるかないかは、とても大きな違いである。数学モデルであれば、仮想的なシミュレーションを行うこともできるし、現実が違う挙動をしたときに修正することもできる。

 

第一線の研究者が、一般向けに自身の専門分野を解説したという内容であり、それをなぜ一般読者にも伝えたいかという問題意識もはっきりしている(詳細についてについては是非本書をお読みいただきたい)。そして退屈にならないようによく構成が練られている。前にレビューした『なぜ科学はストーリーを必要としているのか』に登場した「ABT形式」にも沿っており、アメリカの第一線で研究する筆者の熱量がこもった一冊である。

hz75hz.hatenablog.com

 

続きを読む

トラウマ体験者にも、支援者にも−『トラウマの現実に向き合う―ジャッジメントを手放すということ』

 トラウマに遭った経験を持つ人と接するとき、人はしばしばどのように接すればいいのか戸惑う。躊躇う。被害者なのか、それともトラウマを生き延びた人なのか、強い人なのか、憐れむ対象なのか、世界の不条理を体現する人なのか。そういった態度はいずれもジャッジメント(決めつけ、評価)であり、その人の現実に向き合えていないと著者は語る。地に足のついた、トラウマに向き合うための心の在り方についての本。

なお、この本は「トラウマを体験した人」とどのように接するか、向き合うか、という点について主に援助者・治療者に向けて書かれている。何故なら、残念ながら臨床の現場において、トラウマ体験者が適切に受け止められていないケースが少なくはないのである。自分もこの本を読んで、改めて自身の臨床を振り返って恥じ入る点が多々あった。

 

続きを読む

読書メモ:いまの科学で「絶対にいい! 」と断言できる 最高の子育てベスト55―――IQが上がり、心と体が強くなるすごい方法

 

育児中なのでこういった本は気になる。評価も悪くなかったことと、序文に「本書は、実験・研究データに基づいて書かれています」と書かれていたので興味を持って読んでみた。

しかしひどいタイトルである。最近の流行りとは思うが、原題は「Zero to Five: 70 Essential Parenting Tips Based on Science」、つまり「0歳から5歳までの5年間の発達を助ける、科学的根拠に基づいた70のアドバイス」というタイトルである。この5年間が人生で最も変化が大きい時期であり、この時期に子どもに身についた学びは、その後の人生をずっと助けてくれるという考えから、筆者は「Zero to Five」というタイトルをつけた。正直この邦題のせいで手を伸ばすのを読者もいるのではないだろうか(しかし逆にこのキャッチーなタイトルのおかげで届いた読者層もいるのかもしれない)。

 

エビデンスに基づくことをウリにしているが、筆者が序文で断っているように、医学的なエビデンスの考え方と子育てとは、お互いに馴染まない点もある。医学的なエビデンスの目指すものは「厳密な実験に基づいた立証データ」である。実験の対象にはできるだけ等質な集団を用意する必要があるが、子育てにおいて、子どもをカテゴライズすることは非常に難しい。子どもの気質は成長発達段階であり、こちらの関わりによっても変化するからである。実験では介入は一律にプロトコールを遵守しなければいけないが、子育てで杓子定規なやり方を続けることはできないことは誰もが経験するだろう。他にもアウトカムが数値として測定困難、交絡因子が多すぎるといったことが挙げられるだろう。

たとえ研究結果がくり返し立証されてもなお、自分の子に該当するとは限りません。(中略)その意味では、この本は、いわば「道案内」のようなものです。よさそうだと思う道を選んだり、いまの道のままでいいのかを確認したりするのに使ってください。すべてのアドバイスに従う必要はありません。赤ちゃんが生まれたら、できるだけ肩の力を抜きましょう。p6

 

 

さて、内容だが、現実的かつ理に叶ったものが多い。

寝かしつけ、声掛け、遊び方、しつけ、といった項目毎に、シンプルにまとめられているので、さらりと流し読みできるし、困ったときに読み返しやすい。中には理想論で、家庭状況によっては到底実行は困難だろうと思う内容もあるが、それこそ筆者が書いているように、内容をすべて守る必要はなく、自分の子育てに合うものは取り入れ、合わないものは読み流すという態度でいいだろう。

 

読んでいて有用だと思ったアドバイス

新生児の赤ちゃんにも「共感」をすることが有用

赤ちゃんの立場から考えることで、長時間抱っこであやしたり、夜中にオムツを替えたりといったお世話のときのイライラが軽減します。夫はこれが得意です。泣いている娘に「悲しいんだね、かわいそうに」「赤ちゃんはつらいよね」「さあ、オムツを替えようか。オムツがきれいだと気持ちいいよね」と声を掛けるので、私もつい笑顔になりました。p173
相手の事情や心理を想像することで、こちらのイライラが軽減されるテクニックは、

読書メモ:「怒り」がスーッと消える本-「対人関係療法」の精神科医が教える - 75Hzの読書メモ でも書かれていた。赤ちゃんが本当にそんなことを考えているのか、なんてことは実は重要でなくて、相手にも事情と理由があって自分を困らせているのだ、と思うと、じゃあどうするかという現実的な対処法に気持ちが向きやすいのだ。

 

子供には生まれ持っての気質がある

いくつかの分類が紹介されているが、トーマスとチェスという研究者が報告した3つの型がわかりやすい。彼らは32年かけて140人の子どもの気質のデータを採取し、分類した(p181)。
  1. 柔軟・ラクな子ども [40%] 
  2. 短気・活発・難しい子ども [10%] 
  3. 慎重・打ち解けるのに時間がかかる子ども [15%] 
  4. その他 [35%] 
まあまあ納得感はある。実際に大事なのはこの型が本当に正しいかではなく、自分の子どもの行動・情動のパターンを知ること。そして親がそれに合わせてどうすべきかを考えることができるということだ。
子どもとの適合度が低い親が、よりよい関係を築く方法はただ一つ。親の期待とスタイルを調整し、子どもの環境を調整することです。
その通り、親が理解し合わせるしかないのだ。
 
ここから先は、本の内容で参考になったところを備忘録的にまとめた。
読んで興味を持たれたら是非本書にあたってみてほしい。
 

読書メモ:「怒り」がスーッと消える本-「対人関係療法」の精神科医が教える

 

「怒り」がスーッと消える本―「対人関係療法」の精神科医が教える

「怒り」がスーッと消える本―「対人関係療法」の精神科医が教える

 


「怒りで損なわれるのは相手の人生ではなく、自分の人生であって、相手の対処を待つというというのは相手に主導権を委ねてしまっていること」
「自分がとっさの怒りに囚われたときには、『単に自分の予定が狂ったから困ってるのだ』と考える」
「人の言いがかりは、相手の心の悲鳴」
などなど、短いながらも含蓄のある言葉が散りばめられている。

 

著者は対人関係療法の専門家でもあり、その考え方をベースにしている。そのため内容は高度なところもある。最初につまづきやすいのは、「役割期待」だろう。対人関係療法において用いられる専門用語である。人と人が交流する対人関係という場においては、お互いが相手に対して「こういう風に考えて、こう行動するものだろう」という期待を抱いている。そこに齟齬があり、自分の期待が裏切られたり、その結果として自分の予定が狂ったり被害が生じると、怒りが生じる。という考え方がベースになっている。「勝手に」「無自覚に」に抱いている期待に気づき、そのズレを修正しないと、小手先のストレス解消で怒りを抑えたとしても、怒りがくすぶりつづけてしまうのだ。

 

近年ではアンガーマネジメントのセミナーも増えているが、アンガーマネジメントがあくまでも「スキル」に特化しているのに対し、この本は、「怒りが生じた対人関係の現場において、それぞれの心に何が起きているか」に着目し、根底から怒りの意味付けを解体することを目的としている。

 

語り口は柔らかで、身近な例(夫が家事をしてくれなくてイラつく、自分のことを決めつけられてムカッとする)が多数用いられ、非常に分かりやすい。可愛らしいイラストも添えて非常に読みやすい文章なのだが、深く読むとその実かなり高度なところまで踏み込んでいることに気がつくだろう。その分、全てを書かれた通りに実行するのはかなり難しい。「こういう風に考えると、行動すると少し楽になるかも」くらいで気楽に読もう。

 

すべてを実践できないとしても、
「相手を変えようとしない」
「あなたを主語にするのでなく、あなたの行動で、私がこのように困っているというように伝える」
「自分は状況をコントロールできる、という感覚を取り戻すと、被害者から脱して怒りを手放すことができる」
といった実践的なアドバイスも多い 

臨床家のための対人関係療法入門ガイド

臨床家のための対人関係療法入門ガイド

 

 日本ではあまり対人関係療法は普及しておらず、おそらく著者の水島先生が本も多く書き第一人者だろう。こちらは医療者向けで、うつ病を主な対象疾患とした対人関係療法についての入門書。

 

日々切れ味鋭く、子育て論からインターネット上に転がるモヤモヤまでをぶった切る「斗比主閲子の姑日記」でも紹介されています。他の記事も非常に面白いです。

topisyu.hatenablog.com

読書メモ:誰もが嘘をついている ビッグデータ分析が暴く人間のヤバい本性-

 

誰もが嘘をついている ビッグデータ分析が暴く人間のヤバい本性

誰もが嘘をついている ビッグデータ分析が暴く人間のヤバい本性

 

 

Google検索データ、Pornhub(世界最大のポルノサイト)の閲覧データを解析し実証した著者による本。

ベースはビッグデータ解析についての本で、他の研究も豊富に紹介されている。

アメリカに暗然と存在する人種差別について明かしたり、中絶を厳しくする法律が施行されると非合法な中絶数が増えることを示すなど、かなりヘヴィな内容も含まれるが、著者のユーモアでそこまで重くならずに読めた。

途中でちょっと非モテっぽい自虐ネタを入れたりと、アメリカのギークの雰囲気が少し伝わってくる。

結局ビッグデータで明かされるのは「ああ、そう言われてみればそうだよね」という内容も多い。
例えばセックスレスについて検索するのは女性が多い。直感には反しているかもしれないが、妻とセックスレスの夫に比べ、妻のほうが「他所で」解決するのは困難だから、それは検索数も増えるだろう。とも考えられる。

Pornhubのデータで筆者にとって「衝撃的」であったのは、男性の欲求対象として「女装した男」(検索順位77番目)、「おばあちゃん」(110番目)などがあること。そして女性によるPornhubの検索の25%は、女性がかぶる苦痛や恥辱を強調した動画であり、5%はどう有為を伴わないセックスの動画を(同サイトでは禁止されているにもかかわらず)探している。ということであった。

これは日本人にとってみれば日本の男の娘や、レディコミック、少女マンガで描かれる性ファンタジーを見れば一目瞭然でもあるだろう。

 

 

ビッグデータで明かされるのは、社会の本音であり、露悪的だと感じる人もいるだろうが、それでもこれからの時代はデータを使いながら少しずつ前進していくしかない。オバマによる道徳心や寛容さを説く演説は、各社新聞紙に絶賛されたが、その裏では人種差別的な検索が増えていた。一方で、多くのアメリカ系イスラム教徒は、スポーツヒーローであり愛国的な兵士として国を守っているという演説の後には、イスラム教徒に肯定的なキーワードをつけて検索されることが増えた、というデータは示唆に富む。

 

本の最後の章ではビッグデータ解析があまり有用でない分野(投資など)や、危険な使われ方(社会スコアなど)についても触れられており、バランスがとれた内容になっている。あなたを支配し、社会を破壊する、AI・ビッグデータの罠 にも通じる内容であり、それだけビッグデータ解析がコモディティ化してきたということでもある。

 

あなたを支配し、社会を破壊する、AI・ビッグデータの罠

あなたを支配し、社会を破壊する、AI・ビッグデータの罠

 

 AI・ビッグデータの使い方について「数学破壊兵器(Weapons of Math Destruction)」という造語で警鐘を鳴らす本(大量破壊兵器massと数学mathをかけている)。当然だが若干内容がネガティブに寄っている。